#1_二つのテーマ
リニューアルした弊社のサイトに新たに加わった
映像制作にまつわるこのコラムページ「Depth of Field」。
Depth of Fieldとは被写界深度のことですが
カメラや撮影のことだけではなく、映像制作全般について
この仕事の面白さが伝わるように分かりやすく、時にはマニアック味を少々加えて
知力体力好奇心が続く限り書いてみようと思いますのでどうぞよろしくお願いします。
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さて、旧サイトでは毎日日替わりで社員がblog担当として記事を書いておりまして、
私の回では、このコラムもきっと同じような内容になるであろう記事を書いていたのですが
参考までに過去のblogを漁ってみたところ、2年前の雑記2が
凡そ近いと思われましたのでちょっと振り返ってみました。
その記事では4Kの到来の話と、ちょうど世に出始めた3軸ジンバルが欲しいと書いておりました。
それから2年経った現在では、コンパクトデジタルカメラでさえ簡単に4K撮影できてしまうし、
中華製メーカーの3軸ジンバルなら格安で手に入れることができる時代になりました。
DJI OSMOのようにソフトクリーム型と呼ばれる片手で持てる4Kカメラ内蔵タイプのものや、
自撮り用小型ドローンなるホバーカメラというものなど
面白いものが日進月歩の勢いでリリースされていて、チェックしていくのに必死です。
そして、あの高嶺の花だったREDから、ついに廉価版の「RED RAVEN」が世に出回り始めます。
約100万円ほどで映画クオリティで撮れてしまいます。
Sony FS7、Canon C300Mk2は駆逐されてしまうかもしれません。
低価格でハイクオリティ。
今までになかった映像を簡単に。
これは私たちにとっても嬉しいことなのですが、逆にとても脅威なことでもあって、
個人レベルでの革命が可能になってしまった。
つまりプロとアマチュアの境界線がなくなって来ているということなんです。
既にBlackmagick Design社が多くの個人ユーザーの味方になって
低価格なデジタルシネマとカラーグレーディングを広めた立役者であることは間違いはなく
VimeoにはDaVinci Resolveでカラーグレーディングしたであろう
クオリティ高い個人映像が山程あります。
そして今やそんな一般の人が作ったVimeoの映像を企画や仕上げの参考にする、
なんていうことも多々あります。
カメラ機材に限らずコンピュータやソフトを扱う方にも言えると思いますが、
趣味的で、費やした時間への対価を目的としない、初期衝動に突き動かされる人々の創作力には
もはやプロでも敵わなくなって来ている時代なのかと思います。
ではこの仕事に於けるプロとは、そしてその優位点一体何なのか。
また、映像制作会社の生きる道とは。
これが私が常々考えているテーマの一つ。
クリエイティブの業界ではこれが正しい作り方ですというような正解がない世界と言われます。
時と場合によって昨日のやり方が今日は当てはまらないこともあります。
その正解のない世界で私たちはもがきながら答えを求め続けているのですが
現時点で私が考えるプロとは、
「それが正解ですと言える説得力と、導く行動力を持つこと」 かなと思っています。
もはやプロとか何とかは単なる言葉にしか過ぎないし
お金をもらっていようがいまいが、そういう人に着いて行きたいと思うのではなかろうか、と。
もちろん、最初から最後まで手を抜かず、日程を守る責任感があるというのは言うまでもなく。
…
さて、頻繁にリリースされる新機材を使って撮ってみたい映像を想像したり
何に使えるかを考えたりすることは楽しくもあり、何かの解決の糸口になったりもするので、
できるだけ技術の最先端には居たいというのが私の信条なのですが、
一方で、そういった新しい機材とか技術は置いといた部分の基本的なこと、
例えば 光をどう捉えるのかとか、このシーンはどんな色で、どんなアングルが良いのか
というような、どうすれば人の心に訴えるのかを同時に考えています。
変わらないものって何だろう。
見たくなるようなものって何だろう。
美しいもの?知への欲求を満たすもの?
常に新しく変わっていくものを突き詰めていけばいくほど、
着いていけなくなる不安から、その反対の、いつの時でも変わらない
普遍的なものを求めて均衡をとっているのかもしれません。
技術が古くても良い映像は沢山あるし、良い瞬間ならばこの機材じゃなければ、とか関係ない。
iPhoneで撮ったっていいかもしれない。
逆に、良い瞬間を出来る限りいい状態で見せることで感動をもたらすかもしれない。
それらを融合することで面白いものが生まれるかもしれない。
要はバランスで、何が一番大事なのか、何が良いのか、
この「変わるものと変わらぬもの」を考えることで
何かヒントが見えてくるのではないだろうか、というのが私のもう一つのテーマなのです。
・プロとは。
・変わるものと変わらぬもの。
このテーマを携えて私はどこに向かって行くのでしょうか。
今回はこの辺で。
塚本 聡